第9回(2015年)日本物理学会若手奨励賞 (素粒子論領域)

受賞者: 藤間 崇(University of Durham)
対象業績:「銀河中心からのガンマ線超過を説明する暗黒物質の研究」
対象論文:
[1] “Internal Bremsstrahlung Signature of Real Scalar Dark Matter and Consistency with Thermal Relic Density”
Takashi Toma, Phys.Rev.Lett. 111, 091301 (2013).
受賞理由:
 宇宙の暗黒物質の正体は未知の素粒子であると考えられ、多くの可能性が提案されている。その中でも宇宙初期熱的に生成されたWIMP(Weakly-Interacting Massive Particle)は最も有力な暗黒物質候補であると考えられており、その証拠を見つけるべく、加速器による直接生成、地上での直接探索、さらに観測された宇宙線中にWIMP対消滅の兆候を探す間接探索などの研究が盛んに行われている。
 Fermi衛星は宇宙からのガンマ線を観測しており、その観測において、銀河中心方向から到来するガンマ線スペクトラムの130GeV近辺に、バックグランドに比べ優位なピークがあることが報告されている。銀河中心は暗黒物質が大量にある場所であり、また天体現象でガンマ線のスペクトラムにピークを作ることは考えにくいことから、WIMP対消滅起源である可能性が指摘されている。その一方で、このガンマ線超過を説明するようなWIMPの宇宙初期熱的に生成された残存量は観測に比べ小さくなってしまう問題が指摘されている。ガンマ線スペクトラムにピークを作るようなWIMP対消滅過程は摂動論の高次の過程となり、観測を説明するにはWIMP対消滅断面積を大きくする必要があるからである。
 申請者は、WIMPが荷電フェルミオンと相互作用を持つような実スカラー場であれば、観測されている暗黒物質の残存量とガンマ線超過の両方を同時に説明でき、この問題が解決可能であることを示した。WIMPが実スカラー場ある場合、WIMPが非相対論的な時の荷電フェルミオン対への対消滅過程は相対速度の4乗で抑制される。その一方で、ガンマ線を出す過程はその様な抑制が存在しないことから、2つの問題を同時に説明できる。
 以上のように、非常にシンプルな模型ではあるが、これらの問題を解決する重要な指摘であり、この結果はPhysics Review Lettersに掲載され注目を集めている。また、130GeVのガンマ線の過剰についてはこれから更なる検証が必要であるが、この論文の成果は今後の観測結果にも適用出来るものである。この論文は、藤間氏単名のものであり、また、問題を解決しようとする意欲が伺える。これらの点を総合的に判断した結果、若手奨励賞としてふさわしいという結論に至った。